非日常感覚を日常へ~CATスキーの静かな浮遊感~

この記事は3分で読めます

国内のスキー人口は減っているが、

外国人スキーヤーは増えている。

 

なぜ?

毎日降り続く日本の新雪が貴重だから。

 

夜間に降り続く雪で

先行者の滑り跡(トラック)は
翌日にはリセットされているから。

 

ノートラックのパウダースノーを求めて

世界中からスキーヤーが
北海道や長野県の白馬地区等に
集まっている。

 

  1. ゲレンデのパウダーは取り合い

    普通のスキー場は
    雪上車がコース整備を行い、
    滑走しやすい雪面にしている。

    雪上車が圧雪した雪面の方が滑りやすい。

    しかし、中には
    非圧雪(新雪の状態)の雪面を残す
    スキー場がある。

    パウダーを求めるスキーヤー、スノーボーダーが
    集まるから。彼らはリピーターとなる。

    このようなスキー場で
    ノートラックパウダーを滑ろうとすれば…

    早朝からリフトの順番を待たなければならない。

    そして、
    あっという間に新雪は食い尽くされる。

    そこでパウダーを求める人は
    スキー場の外を目指すことになる。

  2. スキー場の外の世界

    燧岳

    スキー場の外へ出て、自然な冬山を滑るのが、
    バックカントリーツアーだ。

    パウダーは豊富だが…
    自然の地形を滑る技術と
    冬山登山と同じ経験、判断が必要になる。

    雪崩に備えた装備(ビーコン、プローブ、スコップ)、
    冬山装備、ガイド同行、登山届は必須となる。
    ガイドは雪崩情報に精通していなければならない。

    BC登り
    バックカントリーで滑るには、
    登り(ハイクアップ)がセットとなる。

    スキーの場合、
    かかとが上がり、歩行できるビンディングを取り付け
    板には後滑りしないシールを装着して
    一歩ずつ板を滑らせながら登る。

    雄大な景色を眺め
    風音以外は全くの静寂の中を登ると…

    自然の中で
    本来備わっていた感覚が起動する。
    太古には自分の身を守っていた直観力が。

    日常で思い悩んでいた些末な事、心配、不満等への
    関心はなくなっている。

    滑走地点(ドロップポイント)に到達すると
    シールを剥がしてザックに収納して
    ビンディングを滑走モードにしてスタートする。
    BC
    自然の地形、雪面の状況、
    これから目指すルートを確認する。

    木々を抜け、谷を間違えないように、
    雪庇やクレパス、スノーブリッジに注意して
    安全第一の滑走となる。

    バックカントリースキーは
    登りも滑りもリスクマネージメントも
    全部セットで楽しむ冬山登山だ。

    スキーを着ければ
    冬山の移動能力が格段に向上する。

    バックカントリーツアーでも
    滑りに特化した世界がある。

    その一つが雪上車でハイクアップする
    CAT(雪上車)スキーだ。

  3. CAT(雪上車)スキー

    CATスキー

    ハイクアップを雪上車で行うことで
    長い距離を滑走できる。

    通常のバックカントリースキーでは
    経験できない世界がある。

    今年も参加した
    TENGU CAT-SKI GUIDES について
    書いてみる。

    TENGU CAT-SKI GUIDES は
    今年で7年目を迎えるCATスキーツアー。

    北海道旭川から車で2時間程にある
    北大雪エリアで運営されている。

    ツアー参加のゲスト以外は
    当エリアには踏み入れないので、
    ノートラックパウダーをゲストだけが
    独占する。

    他のエリアのツアーでみられる、
    喧噪、競争、節度無いスキーヤー、
    ボーダーから隔離され
    ノートラックパウダーを滑ることができる。

    外国の団体ツアーはお断りして
    鎖国を貫いているという。

    TENGU2017 start

    ノートラックパウダーを奪い合うストレスから解放され、
    純粋にパウダーを楽しめる状況になると
    大自然から無垢なエネルギーが入ってくる。

    TENGU2017 trace

    自分達しかいないエリア。
    無心で滑り振り返ると、
    自分達のトラックだけが記されている。
    そんな空間だ。

    さらに、今回のツアーでは、
    CATスキーならではの貴重な体験も出来た。

  4. 体感-30℃の世界

    今回のツアーで、低気圧の通過に伴い
    ストームの中を滑る機会があった。

    雪上車でなければ
    気温-17℃、瞬間風速15m。
    体感温度-30℃の世界には行けない。

    そこでは
    防寒ウェアを着ていても
    長く居られない状況だった。

    雪上車を降りて、板を装着して、
    強い北西風を避けるドロップポイントまで
    トラバースする。

    普通なら時間がかからない板の装着も
    低温・強風でうまくできない。
    思考もうまく回らない。

    なんとか
    森の中のドロップポイントに移動すると
    風の勢いは少し治まる。

    森の中のツリーラン(木の間を滑る)では
    バディ(ペア)を組み滑走の順番を待つ。

    その間も
    手足を動かしていないと
    寒さで痺れ、感覚がなくなってくる。

    しかし、森の中の雪は、深いけど、
    細かく、軽く、柔らかく、スムースだった。

    森の中にひっそりとたたずむパウダーを
    1人で滑り降りている瞬間は

    静かな浮遊感
    音もなく、時間が止まっている気がした。

  5. 非日常では人は素直になる

    今回のツアーは男性5名、女性1名、
    リードガイド1名、テールガイド2名という
    メンバーであった。

    日常から、全く隔離されている状態なので、
    いつも出てくる自意識が出にくい。

    TENGU2017 party

    自然の驚異の中ではお互いに運命共同体。
    メンバー同志は相手を気遣い、
    我先に、オレオレ、関係ない、という
    心の動きにはならない。

    最初に滑る順番となっても
    どうぞ、どうぞ、と互いに譲り合う場面も出る。

    ストームの翌日は視界が広がった。

    雪面がリセットされて
    ノートラックの極上パウダーが待っていた。

  6. 静かな浮遊感

    雪質は毎日変わる。
    同じパウダーでも、降っている最中の雪と
    積もってから冷え込んで、
    湿度が下がった(ドライアウト)雪では
    異なる。

    この日の雪は適度にしまった、
    蹴ると板が戻ってくるピーナッツクリーム感覚の
    パウダーだった。

    まっすぐ降りるだけではもったいない。
    ターンの感覚を楽しんだ。

    後ろから陽が射すと
    自分の影と一緒に滑る。
    不思議な感覚。

    この浮遊感をなんと例えれば良いのか?
    静かで柔らかく、それなりのスピードで
    雪面を移動し、地上を俯瞰する感覚。

    サーフィンでぐいぐい波に運ばれるのとは違う。
    静かな移動感。

  7. 非日常から日常へ

    3日のツアーが終わり、旭川空港へ戻る。
    日常に戻る。

    非日常で得た感覚

    自己中心の小さな考え、悩み、不安、不満を忘れ、
    周囲の自然やメンバーだけに、関心を向ける。

    少し地上から浮き上がって俯瞰する浮遊感覚。
    スムースで滑らかな感覚。

    非日常の世界で終わらしてしまうのは勿体ない。

    日常でも、
    我先に、オレオレ、関係ない 自意識過剰に
    なりがちな自分の心をスイッチを変えて、

    周囲の環境、状況、人に向けて
    静かに俯瞰できる感覚を大切にしたい。

    あの静かな浮遊感を思い出せば
    その感覚にアクセス出来ると思う。

    ここまでお読み頂きありがとうございました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。